一晩に7時間から9時間の睡眠をとるべきだと、子供の頃に教わることが多く、睡眠量に焦点を当てる人が多いと思います。
その一方で、睡眠の質も重要です。
ベッドで8時間以上寝ていても、その間、必ずしも安らかで回復力のある睡眠を得ているわけではありません。
睡眠の質には、様々な要素が影響するため専門家でも意見が分かれています。ここでは、一般的に受け入れられている内容をいくつか見てみましょう。
1. 睡眠の質とは
ある団体では「良い睡眠とは何か」について以下の合意をしました。
・睡眠の効率化 :ベッドにいる85%以上の間、睡眠をすること
・睡眠までの時間:30分以内に入眠すること
・夜間の目覚め : 一晩に一度も目が覚めないこと
・睡眠後の目覚め:目が覚めた場合、20分以内に眠りに戻れること
これは一般的な定義です。人によって重要となる要素は異なります。これらは生涯にわたって一定ではなく、年齢とともに変化する傾向があります。
例えば、新生児は成人に推奨されている睡眠時間よりも多くの時間を必要とします。
高齢者では、深い徐波睡眠に費やす時間が少なくなり、夜間の目覚めが1晩に2回あっても、睡眠の質が良い場合があります。
2. 睡眠の質を測定する方法
ポリソムノグラフィーと呼ばれる睡眠の質を診断する手法があります。ポリソムノグラフィーは、脳波、血液中の酸素濃度、心拍数、呼吸、目や足の動きを記録する一晩の調査です。
このデータを使用して、私たちが寝ている間、それぞれの睡眠段階(N1、N2、徐波睡眠、レム睡眠)で過ごした時間と割合を評価することができます。
また、入眠にかかった時間、総睡眠時間、目覚めの回数、睡眠障害のある呼吸や周期的な四肢の動きなども知ることができます。
市販の睡眠測定端末は、アクチグラフと呼ばれ、データを用いて睡眠の質を推定します。端末の加速度計を使用して一晩の動きを測定・分析します。
睡眠の段階毎に筋肉の動きや睡眠の質を測ることができます。但し、市販の商品による測定では、単に動かずに起きている状態と眠っている状態を区別することが困難であるため、誤って睡眠の質を評価してしまう可能性があります。
そのため、総睡眠時間を測定するために使用するのが最適かもしれません。
2-1. 自己評価
睡眠の質は、翌朝の気分、エネルギー、夜間に目覚めた記憶などで、自己評価することができます。睡眠の質が悪いと感じた日は、ふらふら感、注意力の乱れなど、体の不調を感じることがあります。
これは睡眠の質を評価する上で重要ですが、自己評価には限界があります。自己評価は、医療機関での検査の結果と相関しないことがよくあります。私たち人間は睡眠の質を自己申告するのが苦手です。
極端な場合、よく眠れているにも関わらず、自分の睡眠を気にしすぎて「夜間に何回も目が覚める」など不眠症を報告する人もいます。
2-2. 市販の睡眠測定端末
睡眠は主にノンレム睡眠とレム睡眠の2つに分類されます。
ノンレム睡眠は3段階に分類され、最も深い段階を徐波睡眠と言います。ノンレム睡眠を経てレム睡眠入るサイクルを90~120分ごとに繰り返しています。
睡眠の質の低下は、これらの睡眠サイクルの乱れとよく関連しています。
市販の睡眠測定端末は、脳波などを測定して、睡眠サイクルを予測しているわけではありません。
その代わりに加速度センサーを使って、心拍数を測定しています。また、非公開の独自のアルゴリズムを使用していますが、精度には少し疑問があります。
2-3. ピッツバーグ睡眠質問票
自分の睡眠の質を把握する「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」というものがあります。PSQIは、1980年代後半に開発された自己記入式のアンケートで、1ヶ月間の睡眠の質と乱れを評価するために使用されています。
この質問票は、快眠者と不眠者を区別するために、7つの要素で構成されています。
・主観的な睡眠の質
・入眠までの時間
・睡眠時間
・習慣的な睡眠効率
・睡眠障害(夜間の覚醒、トイレ、咳、いびき、痛み、悪夢、暑さ/寒さ)
・睡眠薬の使用
・日中の機能障害(運転、食事、社会活動時の問題や生産性の低下)
各要素のスコアを合計して、睡眠の質を算出します。国内にある国立精神・神経医療研究センターが出している睡眠の質を評価できるPSQIの例をご紹介します。
3. 睡眠へ影響を与えるもの
ここまでレム睡眠とノンレム睡眠について説明してきました。
健康な成人の多くは、全睡眠時間の約16~20%をノンレム睡眠の第3段階である徐波睡眠に、21~31%をレム睡眠に費やしていると言われています。
ある学者は「我々の身体は、寝てからすぐに徐派睡眠を欲しがり、その後にレム睡眠を欲しがり、レム睡眠の割合が夜が進むにつれて長くなる」と述べています。
睡眠の質に影響を与えるものとは何でしょうか?睡眠障害の種類は多岐にわたります。
睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に一時的に呼吸が阻害される睡眠障害の一つです。
レストレスレッグス症候群(RLS)は、足を動かしたい衝動を引き起こすことで睡眠の質に影響を与えます。RLSは安らかな睡眠に入ることが困難になります。
その他、睡眠の質を低下させる一般的な要因を5つ紹介します。
3-1. 覚醒物質の摂取
覚醒物質を摂取すると、中枢神経系に作用して、精神的な注意力やエネルギー、注意力を高め、眠気を軽減させます。 カフェインやニコチンなどを就寝5時間以内に使用すると、入眠に問題が生じたり、睡眠の質が乱れたりすることがあります。
3-2. 長時間の昼寝
昼寝は疲労を軽減し、気分を改善するのに役立ちますが、質の悪い睡眠の代替策にすべきではありません。長時間(100分以上)の昼寝をすることは概日リズムを乱し、夜間の睡眠を妨げる可能性があります。昼間の昼寝は10分から20分程度にとどめ、夜間の睡眠サイクルを乱さないようにしましょう。
3-3. 寝る体制
寝る体制は睡眠の質に大きく影響します。
胎児のように身を丸めた姿勢は、一般的な寝る体制です。腰痛や妊娠中、いびきの軽減に役立ちます。あまりきつい体制で寝ないことをおすすめします。そうでないと深い呼吸を妨げたり、関節の凝りの原因になったりします。
仰向けは、胃酸の逆流を防ぎ、背骨を中立な状態に保つことができます。しかし、いびきを悪化させ、睡眠を妨げる可能性があります。睡眠時無呼吸症候群の人は仰向けで寝るのは避けるべきです。
横向きは、あなたの背骨を自然な状態で休めることができます。呼吸が楽になり、胸焼けを減らすことができます。問題は顔の片側にシワができる可能性があることです。
うつ伏せは、いびきは減るかもしれませんが、背骨に負担がかかり、腰や首の痛みの原因になることがあります。妊娠中の方はうつ伏せで寝るのは避けた方が良いでしょう。うつ伏せで寝る場合は、骨盤の下に枕を入れておくと、背中をより中立な位置に戻すことができます。
3-4. 就寝前の食事
就寝直前の飲食は、胸焼けや消化不良を引き起こし、夜中にトイレに行く必要が出てくる可能性が高まります。
代わりに、寝る数時間前は、軽くて健康的なおやつを食べると効果的です。朝の血糖値を安定させ、夜に空腹で目が覚めるのを防ぐことができます。
3-5. 心理状態
睡眠は心理状態によって乱れます。ストレスや不安は、入眠を遅らせたり、夜間の覚醒をなどを引き起こしたりすることがよく知られています。
最近の研究では、特にレム睡眠時に、脳が日中の記憶に基づいた感情を処理する上で、重要な役割を果たしていることが明らかにされています。
感情の起伏が激しいと(うつ病やなどの気分障害に見られるように)、睡眠が中断され、質の高い睡眠が不足することになります。
感情的や記憶は睡眠時に整理されます。感情起伏が激しいと脳は処理容量の限界に達します。 そして脳に未処理の感情があるとき、目を覚ますと疲れを感じ取り、一晩中働いていたような気分になります。
4. 睡眠の質を高める方法
適切な睡眠習慣を作ることで、睡眠の質が向上し、より爽快な気分を得ることができます。
寝る1時間前には電子機器の電源を切りましょう。電子機器から発せられるブルーライトは、安らかな睡眠を妨げます。夜に電子機器の光を浴びると、脳は昼間だと思ってしまい、自然に眠気を促すホルモンが分泌されなくなってしまいます。
部屋の温度調節機を15~20℃に調整しましょう。光に加えて、温度は睡眠を開始するための重要な要素です。睡眠サイクルに入る前に体の深部の温度が自然と下がるので、部屋を涼しくしておくと、より安らかな眠りに入ることができます。
寝室を静かで快適で暗い空間にすることは、質の高い睡眠を得るために非常に有効です。遮光カーテンや快適な寝具を使用してみてください。
5. まとめ
質の高い睡眠は、身体的、感情的、環境的要因を総合して決まります。
ほとんどの場合、睡眠習慣を一度変えただけでは改善されないため、時間をかけて改善を繰り返すことが重要です。
個人に合わせた生活習慣の改善を手助けしてくれる睡眠アドバイザーに相談することもできます。瞑想・サプリメントなども睡眠習慣改善のための良いスタートです。
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