概日リズムとは、睡眠と覚醒のサイクルを管理する生体時計のことです。
地球上のどこにいても、人間は生物学的に睡眠と覚醒のサイクルを持つようにプログラムされており、そのサイクルは地球が1周するのにかかる24時間とほぼ同期して動いています。
あらゆる生物には概日リズムの機能があります。このリズムのおかげで、外部の手がかりがなくても、季節を察知したり、時間を予測したりできます。
私たちの身体のほとんどは、概日リズムに従って機能しており、特に体温、食欲、覚醒期、ホルモンレベルなどの調節を行っています。
1. 睡眠と覚醒のサイクル
概日リズムの主な機能は、日中の覚醒と夜間の眠気を促進することです。これによって、睡眠覚醒サイクルが形成されます。通常、健康な人では、7~9時間の睡眠と15~17時間の覚醒のサイクルが繰り返されます。
概日リズムによって、覚醒している間に睡眠傾向が高まり、夜間は周期的に眠くなります。
この毎日のパターンは、身体の内部と環境の両方によって形成されており、24時間ごとに視床下部が時間の変化に反応します。
2. 脳(視床下部)の働き
概日リズムには視床下部の動きが関連しています。視床下部はホルモンを分泌し、体温などの身体機能を調節しています。
視床下部は視交叉上核(SCN)と呼ばれています。小さな脳の一部で、約2万個のニューロンで構成され、視覚と同じ経路上に位置し、明暗の情報を処理する能力を持っています。ここでは、外部から入射する光が減少すると、松果体などの脳の他の領域に信号を送り、メラトニンの放出を促します。
光の入射が減少する夜は、メラトニンの放出が増え、体内時計が一定のスケジュールで動き、毎日ほぼ同じ時間に覚醒と眠気を得ることができるのです。
3. 概日リズムの乱れ
概日リズムが乱れる原因はいくつかあります。最も一般的な原因は時差ボケとシフト労働です。
・シフト勤務シフト労働者は勤務時間が不規則であるため、毎日の就寝時間が異なります。そのため、友人や家族、その他の仕事とのバランスを取りながら、7~9時間の質の高い睡眠時間を確保するのは難しいことです。
また、朝昼晩の食事のリズムも不規則であるため、身体が「そろそろ眠りにつく時間だ」と理解することが非常に難しくなります。入眠までの時間や睡眠の質に悪影響を及ぼす可能性があります。
夜勤をし続ける人は、最終的には昼間に睡眠するように体内時計が調整されます。夜間の勤務から日中の勤務に移行する場合などに、概日リズムの調整は最も難しくなります。
シフト労働者は慢性的な心血管疾患や胃腸疾患のリスクが高くなる傾向にあります。
・時差ボケ時差ボケは、長距離のフライトによって引き起こされる概日リズムの乱れです。時差ボケの症状には、疲労感、集中力の低下、胃腸障害、脳のぼんやり感などがあります。
フライト中に睡眠をとったり、目的地での睡眠と覚醒のサイクルに合わせることで、時差ボケの症状を軽減させることができます。
4. 概日リズム睡眠障害
概日リズム睡眠障害には、遺伝的なものもあれば、年齢や基礎疾患に関連したものもあります。
大部分は、脳卒中、躁病、うつ病、頭蓋内感染症、頭部外傷、中枢神経系刺激薬、抑うつ薬の使用などの病状と関連しています。
概日リズム睡眠障害には4つのタイプがあります。
4-1. 睡眠相後退症候群(DSPS)
DSPSは、6ヵ月以上にわたって、一般的な時間に入眠および覚醒ができない状態と定義されています。一度眠りにつくと睡眠を維持し、一般的な睡眠時間を確保することは問題なくできます。これは思春期、10代、若年成人に最もよくみられます。
4-2. 睡眠相前進症候群(ASPS)
ASPSは、早寝早起きが特徴で、午前3時から5時の間の早朝に目が覚めます。ASPSはDSPSよりも頻度が低く、高齢者やうつ病を患っている人に多く見られます。
4-3. 不規則な睡眠・覚醒サイクル
不規則な睡眠・覚醒サイクルによる睡眠障害事例が見られます。睡眠、覚醒、および食事は不規則ですが、睡眠時間は正常です。
4-4. フリーランニング障害(FRD)
FRDは睡眠の開始と覚醒の時間が慢性的に1~2時間遅れる症例です。
5. 概日リズム睡眠障害の原因
・環境の変化・遺伝的要因
6. 概日リズム睡眠障害の徴候
・総睡眠時間と機能障害の持続時間
半年以上続く場合は慢性的なものと考えられています。睡眠時間は睡眠相前進症候群(ASPS)や睡眠相後進症候群(DSPS)睡眠の開始時期は異なりますが、総睡眠時間は同じです。
・不規則な時間帯の覚醒
覚醒のピークがDSPSでは夕方、ASPSでは朝など、一般的に覚醒する日中の時間帯とずれてしまいます。
・日中の眠気
日中の眠気は概日リズム睡眠障害全般に見られます。集中力が低下してパフォーマンスが低下することがあります。頭痛も起こることがあります。
・不安や抑うつ
過剰な睡眠や不十分な睡眠はうつ病や不安症の1つの症状です。さらに、うつ病や不安症の治療に使用される薬は、体内時計に影響を与える可能性があります。
・認知
認知や意思決定の能力が低下するおそれがあります。しっかりと睡眠が取れてないのに、学校や仕事など決められた時間に起きなければならない場合は、概日リズムが乱れるために、日中に過剰な眠気に襲われる可能性があります。これは思春期や成人によく見られる症状です。日中の過度の眠気は集中力を低下させ、判断力を低下させ、仕事上の事故の発生確率を高めます。
・自己治療の方法
ほとんどの場合、サプリメントや薬による自己治療では、根本的な原因に対処できません。睡眠を改善するためにアルコール、OTC睡眠補助剤、処方薬を使用すると、人間の自然な概日リズムを乱し、依存症につながる可能性があります。
・薬物療法の歴史
喘息、カフェイン、抗うつ剤、ステロイド、ニコチンなどの薬は、睡眠に影響を与える可能性があります。研究によると、薬を摂取するタイミングが薬の効果に影響を与え、本来ならば眠りにつくはずの時間帯に目を覚ましてまう可能性があります。
7. 概日リズム睡眠障害の診断
・障害を診断するための睡眠検査
睡眠検査の1つは、普段の睡眠・覚醒サイクルを記録し、2週間にわたって記録していくことです。眠気の客観的な測定には睡眠潜時反復検査(MSLT)と呼ばれる別の検査が使用されます。
エプワース眠気尺度は、特定の活動中に居眠りをする可能性がどの程度あるかを測定する単純な自己評価テストです。睡眠科学で広く使用されています。
・画像診断
MRIやCTなどの脳の画像をスキャンして、神経疾患が疑われる場合に評価します。アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患は、これらの検査で診断することができます。どちらも概日リズムの問題を引き起こす可能性があります。
・アクチグラフィー
アクチグラフィーは、一定期間の睡眠覚醒サイクルをトラッキングして測定するために使用される睡眠評価技術です。手首に装着した小型の装置を使用し、通常は加速度センサーで一日中の活動を測定します。
・終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査
複数のセンサーを使用して、脳波、脈拍、血圧、呼吸、足や目の動きなどを追跡・測定します。これは睡眠を理解するための最も優れた方法です。閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)、ナルコレプシー、睡眠時の周期的な四肢運動などの識別に使用されます。
8. 概日リズム睡眠障害の改善
概日リズム睡眠障害の治療は、行動療法と薬物療法の組み合わせで改善されます。
時差ぼけのような場合、質の良い睡眠の確保が必要です。シフト勤務のような場合は、毎晩7~9時間の睡眠時間を確保できるように睡眠環境を整えることが第一歩です。基礎疾患がある場合は、睡眠の悩みについて医師や医療機関に相談するのが一番です。
行動療法は、理想的な概日リズムを取り戻す最も効果的な方法で、以下のようなものがあります。
・認知行動療法・ライフスタイルの改善(カフェインやアルコールを避け、日中の運動量を増やす)
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